この本は、マーケティングの神様とも称されるフィリップ・コトラーが日本に向けて書き下ろし、昨年刊行された書籍です。
新しい富の行方、資本主義の未来、日本の価値を最大化する戦略まで、多方面にわたって語りつくしています。
目次
なぜ日本向けの書籍を作ったのか?
コトラーは日本文化の大ファンであり、日本刀の鍔(つば)のコレクターであり専門家といえるほどの知識のようです。
なぜ鍔のみなのか?それは妻のナンシーが子供のいる家に刀を置いてほしくないと言ったからだそう。
日本との直接の交流のきっかけから、セブンアンドアイHDの伊藤名誉会長との出会い、これまで輩出してきた日本人などの話が出てくる。
そんな日本との交流のなかで日本に魅了され強い可能性を感じことこそが、この本を執筆した要因であると感じました。
第1章 経済学と経営学の間
この章では、コトラーが「マーケティングに人生を賭ける」経緯にいたった背景や出会いなどについての章。
もともとは自由主義経済を重視する「シカゴ学派」の、M・フリードマンに強烈な影響を受けていたそうだが、ケイジアンであるポール・サミュエルソンとの出会いなどでケイジアンになったそうです。
また、コトラーの提唱する「ソーシャル・マーケティング」を生み出す基礎となった、インドでの経験が語られる。
第2章 マーケティング1.0から3.0へ
時代の変遷に合わせたマーケティングの変遷について書かれている。
製品主体のマーケティング1.0から3.0にいたるまでの話がメインになる。マーケティング3.0の目的が「世界をよりよい場所にすること」という点に、感銘を受けます。
第3章 マーケティング4.0とは
デジタル時代の中で、顧客がある製品を購入するに至るまでの道筋のモデルをコトラーの視点で開発した「5A」という仮説が印象的でした。
「Awareness」気づき
「Appeal」魅了
「Ask」尋ね・求め
「Act」行動=購買
「Advocacy」推奨表明
これは顧客の購買意思決定プロセスのAIDAモデルにとって代わるものとして提唱しています。
第4章 ドラッカーとコトラー
「近代マネジメントの父」と称されるドラッカーとの出会いやイノベーションについて語られる。
ドラッカーはコトラーの『非営利組織のマーケティング』についての論文を読み、それに関心を寄せコトラーに接触したよう。
第5章 新しい富はどこにある?
サブタイトルを「逆転する国家と都市のパワー」として、国の発展や都市の発展についての分析をしていく。
世界にはいま、都市が24万8752存在しているという試算があり、そのなかで、トップ100都市が、世界のGDPの37%を占めているそう。さらに、人口1000万人以上を抱える都市(メガシティ)は36ある。
そして、世界のトップ600都市が、世界人口の20%を占め、34兆ドルのGDPを生み出している。これは世界のGDPの半分に相当する。
これらの要因を鑑みて、都市自身が自らの役割と成長の必要性を認識する必要性を訴えている。
第6章 万人に役立つ資本主義を求めて
資本主義が抱える問題点をや、国家を動かすほどの存在感をもつ1%の富裕層の問題点などを挙げ、経済学者がいま考えるべきことなどを投げかけている。
さらに、記憶に新しい「タックス・ヘイブン」について万人にとって有害であると、痛烈に批判している。
第7章 日本だけが持つ価値を自覚せよ
アメリカと日本の所得格差を比べ、日本の経営層と一般の従業員の所得格差が5~6倍程度であるため、アメリカほどの格差は開いていないし国家として安定しているのではないか?と述べている。
くわえて創業200年を超える企業の半数弱が、日本に存在しているという。
日本企業は顧客に情報を提供し、価値提案を行う能力の向上が必要だと言っているが、それもこれだけ素晴らしい実績にまだ伸びしろがあるからだろうと思う。
終章 不透明な時代の人生戦略
今後デジタル化の進展に伴う自動化により、多くの仕事が機械に代替される可能性について言及し、日本の終身雇用制度も、今後は当たり前といかない時代がやってくるという。
そのために、一般教養を学ぶことが重要であると推奨。さらに、起業しやすい社会を作っていくことも大事という。
ほかに物質主義的でない幸福のあり方についても、コトラーなりに提唱してくれている。
おわりに 平和とマーケティング -広島で考えたことー
平和主義者のコトラーらしい締めくくりで終わる。
人はなぜ争ってしまうのか?それを抑止するには私たちはどうすればよいのか?などを問いかける。
平和に対していま、平和を希求するだけではなく、私たちがすぐにできる方法論は星の数ほどあることを、何度でも強調しておきたい。
まとめ
コトラーが日本のために書いた本書。
冒頭に
変革を求めるすべての日本人に捧げる
とのメッセージから始まる。
第二次世界大戦を経験をしたコトラー。
敵国であった「日本」のはずだが、日本文化や日本人との交流の中で、日本が好きになり、日本のためだけに執筆した本書。
可能性や課題などを日本人より鋭い視点で語りつくしています。
興味のある方は、ぜひ一読をおすすめします。
参考:コトラー マーケティングの未来と日本 時代に先回りする戦略をどう創るか